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大阪地方裁判所 平成11年(ヒ)613号 決定

主文

本件申立てを却下する。

理由

第一申立ての趣旨

一  申立人ら

被申立人の次の取締役会議事録について、申立人らが閲覧及び謄写することを許可する。

<1>  被申立人が平成一一年六月二九日以降、藤井桑正、中森久之、浦田孟信、各取締役の退職慰労金について討議した取締役会議事録

<2>  被申立人が平成一一年六月二九日から平成一一年一二月末日までの間に、取締役の報酬、賞与等の減額について討議した取締役会議事録

二  被申立人

主文と同旨

第二申立ての理由

一  申立人らの主張

1  申立人らは、被申立人の株主である(甲一二)。

被申立人は、放送法及び有線放送法による一般放送事業等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。

株式会社ホテルプラザ(以下、「ホテルプラザ」という。)は、ホテル事業等を目的とする株式会社であり、被申立人が発行済株式総数の八九パーセントの株式を保有し、かつ取締役を派遣している、被申立人の子会社である。

2  被申立人のホテルプラザに対する貸付金及び同社のための保証債務は、平成六年三月期以降年々増加している。その原因は、平成五年度以降毎期営業損失を計上しているというホテルプラザの深刻な営業不振にあった。

平成一一年二月一〇日、被申立人とホテルプラザは、それぞれの取締役会において、同年三月三一日をもってホテルプラザの営業を停止して会社を清算する旨の方針を決定し、同年四月二八日、ホテルプラザは、株主総会において、解散決議を行った。被申立人は、ホテルプラザの解散及び清算により、特別損失として九六億円を計上するなど、多額の損害を受けている。被申立人の実質損害額は、ホテルプラザの金融機関からの借入金の一部を肩代わりして弁済するなど、同社の債務超過額の全額を負担し、さらに清算費用をも負担することにより、約一二五億円になると伝えられている。

なお、被申立人は、平成一一年六月開催の株主総会において、取締役であった藤井桑正、中森久之及び浦田孟信に対して退職慰労金を支給する旨決議し、その額を取締役会に一任した。さらに、被申立人は、その後、取締役の役員報酬及び賞与の減額をしたと伝えられており、その割合は、平成一一年七月から同年九月までの間、社長は三〇パーセント、その他の取締役は二〇パーセント、平成一一年一〇月以降、代表取締役は一五パーセント、その他の取締役は一〇パーセントとのことである。

3  被申立人の取締役は、将来ホテル事業が好転することが不可能であった平成六、七年段階で、あるいは、債務超過で破産寸前であった平成八年三月段階で、あるいは、平成八年七月頃作成された再建計画どおり実施することが不可能となった平成九年三月段階で、あるいは、遅くとも平成一〇年三月段階で、ホテルプラザの営業を停止するべきであったにもかかわらず、停止せず平成一一年三月までホテル事業を継続したことにより、被申立人の損害を拡大させたものである。

4  申立人らは、被申立人の平成五年四月一日以降の取締役会において、どのような資料に基づきどのような議論を行いホテルプラザに対する貸付金及び同社のための保証債務を増加させたのか、ホテルプラザを清算するに当たりどのような討議を行いどのような理由に基づきホテルプラザの債務超過額の全額を被申立人が負担することを決定したのか等を明らかにするため、本件申立てに併せて、「被申立人が平成五年四月一日から平成一一年一二月末日までの間に開催した取締役会のうち、ホテルプラザに関する事項を議題として討議した取締役会の議事録」を申立人らが閲覧及び謄写することの許可を申し立てたが、被申立人が、審問期日において、これに任意に応じて被申立人の取締役会議事録の写しを交付したため、右申立て部分を取り下げた。

5  申立人らは、株主代表訴訟を提起するに当たり、被申立人の取締役であった藤井桑正、中森久之及び浦田孟信に対しては、被申立人が被った損害額のうち、同人らの退職慰労金相当額の限度で賠償を請求する予定である。したがって、申立人らは、株主代表訴訟における請求額を確定するため、申立ての趣旨の<1>の取締役会議事録を閲覧及び謄写をする必要がある。

また、申立人らは、その余の取締役については、被申立人が被った損害額のうち、それぞれ最低でも三〇〇〇万円を被申立人に賠償するべきであると考えているところ、既に役員報酬及び賞与の減額がされている旨伝えられているから、三〇〇〇万円を上回る減額がされていれば株主代表訴訟を提起する必要性がなくなることも考えられる。したがって、申立人らは、株主代表訴訟における請求額を確定するため、申立ての趣旨の<2>の取締役会議事録を閲覧及び謄写する必要がある(なお、申立人綱本守は、平成一二年六月開催予定の被申立人の株主総会に出席して、取締役の責任が十分であったかどうか質問する予定である。そのためにも、具体的な減額内容が必要である)。

6  申立人らが本件申立てをするに当たり、労働組合活動の手段とするとの内心の意思を有していたとしても、組合活動そのものは我が国では当然に認められる行為であるし、株主権の行使が違法・不当であるか否かは、外形的、客観的に判断すべきであって、裁判所は、権利行使者の内心に介入すべきではない。

二  被申立人の主張

1  株主代表訴訟の請求額を退職慰労金相当額等とする必然性は全くなく、退職慰労金の額等が明らかにならないと株主代表訴訟を提起できないというものではない。退職慰労金相当額等を賠償額とするのは、申立人らの都合にすぎず、このことによって、本件申立ての必要性が基礎付けられるものではない。

2  本件申立ては、労働組合運動の一環として、労使交渉の資料とすることを目的として行われており、株主の権利行使に仮託した濫用的なものであり、商法第二六〇条ノ四第四項が予定する場合に該当しない。このことは、<1>申立人綱本守が被申立人の労働組合の元書記長であり(乙一)、現書記長が第一回審問期日に申立人らの関係者として同席したこと、<2>同労働組合は、その発行する組合ニュースで株主代表訴訟への支援を表明するとともに組合員の参加を呼び掛けていること(乙五・六には「この訴訟[株主代表訴訟]を通じて、労使交渉の場では明らかにされることのなかった情報が、次々に開示されることが期待されます。」と記載している)、<3>同労働組合は、従前から、組合の活動方針として役員の退職慰労金、報酬等を取り上げていること(乙二)などから明らかである。そして、本件申立てが許可されれば、同労働組合が、組合ニュース、ビラ等に退職慰労金の金額等を掲載するなどして、組合の情宣活動に利用するであろうことは明らかである。

3  なお、申立ての趣旨の<1>に当たる取締役会議事録は、平成一一年六月二九日付け取締役会議事録のうち決議事項第二号議案の部分である。申立ての趣旨の<2>に当たる取締役会議事録は存在しない。

第三当裁判所の判断

一  商法第二六〇条ノ四第四項は、株主が取締役会議事録の閲覧又は謄写を会社に求めることができるのは、「その権利を行使するため必要があるとき」に限られ、しかも、裁判所の許可を得ることを要する旨規定している。

その趣旨は、無制限に閲覧又は謄写を求めることができるとすると、一方において、取締役会議事録の閲覧又は謄写を、会社から不法の利益を得るための手段として用いる者が現われるおそれがあるとともに、他方において、このような事態に備えて、取締役会で重要な事項を討議した場合にもこれを取締役会議事録には記載しないという取扱いがされるおそれがあることから、株主に対する適切な情報開示を実現するためにはむしろ一定の制約を課すことが相当であるというものであり、これを、株主の権利行使のため必要であることという実体要件と、裁判所の許可手続を経ることを要するという手続要件とを規定することで具体化したものと解される。

二  そこで、本件が株主の権利行使のため必要であることという要件を満たすか否かについて判断することとする。

まず、申立人らは、本件申立てに併せて、「被申立人が平成五年四月一日から平成一一年一二月末日までの間に開催した取締役会のうち、ホテルプラザに関する事項を議題として討議した取締役会の議事録」を申立人らが閲覧及び謄写することの許可を申し立て、審問期日に、被申立人からその取締役会議事録の写しの交付を受けたため、右申立て部分を取り下げている(当裁判所に顕著である)。この申立てにおいて申立人らは、取締役会議事録の閲覧及び謄写を必要とする理由について、申立人らが被申立人の取締役に対して株主代表訴訟を提起するか否か、提起するとして誰に対して提起するかを決めるためには、被申立人の取締役等が取締役会でどのような資料に基づきどのような議論を行いホテルプラザに対する貸付けを継続し、ホテルプラザの債務保証を行うこととしたのかを調査する必要があると主張していたが、これは、右申立ての対象とされた取締役会議事録の閲覧及び謄写をする必要性を十分基礎付ける事由であった。

これに対し、申立人らが本件申立てにおいて主張する事由は、対象とされている取締役会議事録の閲覧及び謄写をする必要性を基礎付けるものとは到底言うことができない。すなわち、申立人らは、被申立人の取締役が被申立人に対して支払うべき損害賠償額が退職慰労金相当額又は三〇〇〇万円であると設定した上、今後提起する株主代表訴訟において請求する賠償額を決めるため、被告となるべき者の退職慰労金がいくらであるか、また、減額された役員報酬額がいくらであるかを知る必要がある旨主張しているけれども、会社に損害を与えた取締役が支払うべき賠償額を退職慰労金相当額又は三〇〇〇万円とする法的根拠は、現行法上これを見出すことができない。加えて、株主代表訴訟の提起を検討している申立人らの立場に立って考えても、被告となるべき被申立人の取締役の退職慰労金の金額あるいは減額された役員報酬額を知る合理的な必要性は格別見出し難い。「取締役の責任を追及する訴え」(株主代表訴訟)は、訴訟の目的の価額の算定に付いては、「財産権上の請求にあらざる請求に係る訴え」と見なされ(商法第二六七条第四項)、訴訟の目的の価額は九五万円と見なされ(民事訴訟費用等に関する法律四条二項)、その結果、訴えの提起に当たり納めるべき手数料は一律八二〇〇円となるから(同法三条一項、別表第一)、株主代表訴訟を提起するに当たって納付すべき手数料の負担を軽減するために、請求額を会社が受けた損害の一部に止める必要もないからである。

なお、申立人綱本守は、株主総会で取締役の責任の取り方が十分であるか否かにつき質問をする予定である旨付言しているけれども、これもまた本件申立ての必要性を基礎付けるものではない。取締役又は監査役に対し調査を要する事項について質問を行うのであれば、「会日より相当の期間前に書面により説明を求むべき事項を通知」すれば足りるし(商法第二三七条ノ三)、どのような説明を受けられるかは取締役及び監査役の説明義務の範囲により決まる問題であるからである。

以上の次第で、申立人らには、申立ての趣旨記載の取締役会議事録を閲覧及び謄写する合理的な必要性がないものと言わざるを得ない。

三  よって、その余の点について判断するまでもなく、本件申立てには理由がないからこれを却下することとする。

(裁判官 池田光宏)

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